サマリー記事

組織再考計画

日本の経営者の意識、組織の実態調査から浮かび上がった重要な論点

第1フェーズでは、今後重要となる「日本の経営環境の変化」として「社会」と「個人」について各4つのシナリオを描き、それがどのような形で組み合わさるかという仮説を提示しました(詳細はこちら)。
フェーズ2では、フェーズ1で提示した仮説を元にした実態調査を行い、日本の企業の現在地と今後の方向性を確認しました。結果は次のスライドにまとめられています。
https://speakerdeck.com/r3sjp/zu-zhi-zai-kao-ji-hua-phase2samarizi-liao-jian-lue-ban

ここでは、フェーズ3で具体的な提言をまとめていくにあたり、プロジェクトメンバーが注目したポイントや、提言の内容に大きく関わりそうな論点をご紹介します。

<フェーズ1 検討メンバー>

瀧澤暁(プロジェクトリーダー) / Thinkings株式会社 代表取締役会長
⼭⽥裕嗣(プロジェクトファシリテーター) / 株式会社令三社 代表取締役
岩⽥佑介/社会保険労務士、IPO・内部統制実務士
岩本卓也/株式会社Polyuse 代表取締役CEO
嘉村賢州/場づくりの専門集団NPO法人「場とつながりラボhome’s vi」代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織』(英治出版)解説者
唐澤俊輔/Almoha LLC 共同創業者COO、デジタル庁 人事・組織開発

日本の経営者は変化をどう捉えているか

実態調査は、日本全国の企業(従業員30名以上)の経営者および経営陣に対するアンケート調査と、首都圏の15社の経営者、経営陣、人事担当者に対するオンライン・インタビューを行いました。

まず、全国の経営者や経営陣(執行役員・事業部長以上)1,109名を対象としたアンケートの結果を見てみましょう。

社会の変化」に対する見通し

回答者が社会の変化をどう予測しているかについては、フェーズ1で作成した4つのシナリオの内「Ⅲ:地域内循環」シナリオに位置づけられる回答が最も多く(36.2%)、「Ⅱ:SDGs2.0」(29.1%)と「Ⅰ:世界市場」(22.3%)が続き、「Ⅳ:社会間競争」(12.4%)が最も少ないという結果になりました。

自社の従業員の傾向と、経営者が望む変化

個人の仕事観や働き方については、自社の「現在の従業員」の傾向として「D:日本型経営2.0」が最多(40.5%)でした。

そして、経営層が「将来的に目指したい方向性」として従業員に望むタイプとしては「D:日本型経営2.0」(32.2%)が最も多いのですが、「現在の従業員」と比較したときの減少幅が一番大きくもありました。増加していたのは「B:分人的な仕事観」のみで、21.0%から31.5%と10.5ポイント増えました。

現在がどの象限にあり、将来はどの象限に移動しているかを見ると、全体的に右から左へ、下から上へ、という傾向が見て取れます。ただし、少数ではあるものの逆の動きもありますし、現在について「D:日本型経営2.0」を選択している人の約半数(55.0%)は将来に関しても「D:日本型経営2.0」を選択しています。

仮説とのズレ

さらに、社会の変化の見通しと将来的に従業員に望むあり方をかけ合わせてみると、フェーズ1で立てた仮説とは一部で異なる結果が得られました。

仮説との差異の理由は明確ではありませんが、ひとつ言えそうなことは、アンケートの回答者が思い描く社会と個人の変化のイメージと、私たちが描いたシナリオとにズレがあるということです。
アンケートでは、社会と個人の4象限のシナリオは提示していません。設問は、4つのシナリオの縦軸と横軸それぞれについて、両極のどちらが確からしいと思うかを問う形になっています。

例えば、社会については以下2つの質問をしています。

Q1.「将来の社会」において、社会全体の価値観の広がり方において、どちらの風潮が強まると感じますか?
1.世界共通の価値観を広げる風潮が強まる
2.国・地域ごとに固有の価値観を許容する風潮が強まる
Q2.「将来の社会」において、社会全体の主なトレンドとして、どちらの風潮が強まると感じますか。
1.経済合理性の風潮が強まる
2.持続可能性の風潮が強まる

2つの質問の回答の組み合わせとしてQ1で2、Q2で2を選択した人が一番多く、これを社会の変化の4象限に当てはめると「Ⅲ:地域内循環」になります。

仮説では、「Ⅲ:地域内循環」の世界では自己表現など内発的な動機を大事にし、固定的・⻑期的・単一な所属を前提とする「C:私たちの組織」を志向する個人が増え、その逆に位置する「C:ビジネスアスリート」は出現しにくいとしていました。しかしアンケートで「Ⅲ:地域内循環」の社会を予想した人は、(他の回答を選択した人と比べて相対的に)将来の従業員に「A:ビジネスアスリート」型を望む割合が高かったのです。

これには多くのメンバーが首をひねりましたが、次のような意見も出ました。

「世の中に『多様性を受け入れ持続可能な社会を目指すべき』という考え方は浸透しつつある。特に外資系企業の経営陣などはそれが前提になっていると同時に、人材の流動性が高く、報酬で引きつけるというやり方は変わっていない。それが『社会』と『個人』の将来イメージのちぐはぐさを引き起こしているのかもしれない」

また、変化が遅い地方においては、「内発的動機にもとづく仕事がしたい」、「一つの組織に縛られずに働きたい」という働き手の意識の変化に無頓着な経営者がまだ多いのでは? という指摘がありました。

そのような人たちが「報酬や評価などの外発的動機で働くこと」や「単一の組織に長期的に所属することを望む」という選択肢を自明のものとして選んだ結果、現在も将来も「D:日本型経営2.0」の割合が高くなったのではないか、というのです。

この推論が正しいとすると、「D:日本型経営2.0」に位置づけられた人たちの一部は、”2.0”ではなく、旧来の日本型経営の雇用のイメージにとどまっているといえます。

アンケート調査の結果は、日本各地に散らばる企業経営者の、平均的な意識を反映していると考えられます。この結果は、私たちの中・長期的な変化の仮説は、現状では平均的な日本の経営者層には理解されにくいということを示しているのかもしれません。

業種業態や地域によっては、旧来型の社会のあり方や雇用関係を抜け出るのが難しいという現実もあります。このプロジェクトでは変化に対応する打ち手を示すことを目的としているため、変化から取り残された組織が今後どうやって生き延びていくことができるかについては、残された課題となりそうです。

変化を志向する企業には、それぞれの背景がある

一方、インタビュー調査をした企業群は世の中や個人の変化に敏感な企業が多く、変化に対する打ち手を考える上でも参考になる点が多くありました。

ベースシナリオと4つの問い

社会の変化については、アンケート調査の結果以上に、「Ⅲ:地域内循環」の世界に向かうという見方が大勢でした(11/16人)。

「日本型経営2.0」を脱してどこに向かうか

自社の従業員については、現在も将来の方向性も「B:分人的な仕事観」が比較的多く見られました(現在7/16人、目指す姿8/16人)。アンケート調査で最多だった「D:日本型経営2.0」は、現在については4人が選択しましたが、将来においてもここにとどまるとした人はいませんでした。

インタビューで得られた発見のひとつは、どの会社も従業員の仕事観や所属意識のあり方に変化が必要だと認識しているものの、その理由は社会の変化というよりも、事業の成長フェーズや組織内の変化に対応するためであることです。そのため、どの方向にどの程度変化させたいのかに、各社の独自性が現れていました。

例えば、アンケート調査では、現在「D:日本型経営2.0」タイプであるとする会社が変化を志向している場合の行き先は「B:分人的な仕事観」が最多でした。

しかしインタビューに応じた「D:日本型経営2.0」を自認する4社のうち3社は「C:私たちの組織」への変化を望んでいました。所属の流動化・多様化を進める前に、まずは社員が内発的動機に基づいた働き方ができるようにしよう、という考えがあるようです。

また、過去には「C:私たちの組織」だったところから経営の合理化などの影響で「D:日本型経営2.0」に変化し、それが行き過ぎたために元の文化に戻そうと考えている会社もありました。

「C:私たちの組織」への移行の次は「B:分人的な仕事観」へ、という見通しを持っている会社もあり、現在地が「C:私たちの組織」の会社も1社を除き「B:分人的な仕事観」に移行することを望んでいました。4象限の左から右へ、下から上へという傾向はアンケート調査の結果と共通するものの、より現実的なステップを考えている会社、実際にそのステップの途上にある会社があることが見えてきました。

組織にとっての「流動化」の意味、実現の仕方にはバリエーションがある

アンケートとインタビューの結果を受け、メンバーが大いに注目したのが「流動化」をどう捉えるか? という問題です。

例えば、これまで新卒採用中心でやってきた大企業にとって、「流動性を高める」というのは中途採用者を増やすという意味合いが強いようでした。

一方、スタートアップ企業は業務委託契約のメンバーが多い状態を「流動性が高い」と考えており、これから意思決定のスピードや事業の堅牢性を高めていくには、正社員を増やして「固定化」を進めていくことが必要だと考えているケースもありました。

社員が一時的に在籍して離れていく状態を「流動的」とイメージしている人がいる一方で、「食品L社」の経営者は、「複業や兼業はしてもここに戻ってくる」というホームとしての会社のイメージを語っており、これも「流動性」の一種だと言えるでしょう。

メンバーからも、流動性について様々な気付きや視点が提供されました。例えば以下のようなものです。

「個人の側では流動化はある程度達成されており、今の時点で企業が「流動化しなきゃ」と言っているところにギャップを感じる。経営陣がすでに起きている変化に気づいているかいないかで、『流動化を目指す』と言ったときの意味も変わるのでは」

「今は、固定的な所属しか選べなかった過去への反動で、流動的な所属に憧れている個人が多い。その中には、本来は固定的な所属が合っている個人もいるはずで、世の中が流動性の方に触れたら、固定化に戻る動きもあるのではないか」

「個人を取り替え可能な機能として捉えて『出ていってもいい』と言うのと、組織を生態系として捉え、人が入れ替わっていくことで変化や成長が促されると考えているのとでは、『流動化』の意味が違う。それぞれを区別して扱うことが重要ではないか」

このような議論を経て、まずは「流動化」の定義付けやカテゴライズが必要であること、組織の現在の状態によって流動化が持つ意味やそこに向かう打ち手も変わるであろうことが、プロジェクトメンバーの共通認識となりました。Phase3で出す提言には、経営トップが「流動化を高めよう」と決めたとき、具体的にどんな打ち手を取りうるかということが必須の要素となりそうです。

続きを読む

有識者インタビュー

唐澤俊輔

まずは自社の現状把握から。
『カルチャーモデル』唐澤俊輔氏に聞く
組織を次のフェーズに引き上げるプロセス

唐澤俊輔代表取締役 Almoha LLC 共同創業者COO
デジタル庁 人事・組織開発

インタビューはこちら
© Thinkings Inc. All rights reserved.