有識者インタビュー

唐澤俊輔

唐澤俊輔Almoha LLC 共同創業者COO
デジタル庁 人事・組織開発

プロフィール

まずは自社の現状把握から。『カルチャーモデル』唐澤俊輔氏に聞く組織を次のフェーズに引き上げるプロセス

新卒で日本マクドナルドに入社後、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、全社の V字回復に貢献。メルカリに身を移し、執行役員 VP of People&Culture 兼 社長室長として人事・組織の責任者を務めた後、SHOWROOMにて最高執行責任者(COO)として、事業と組織の成長を牽引。 その後、Almoha LLCを共同創業し、組織開発やカルチャー醸成のコンサルティングおよび、組織開発のためのサービスやシステムの開発に取り組む。また、デジタル庁にて人事・組織開発を担当。グロービス経営大学院 客員准教授。『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』著者。

企業経営には「ビジネスモデル」と「カルチャーモデル」の両輪が必要

山田:まずは、唐澤さんが『カルチャーモデル』で書かれていることの概要をお話いただけますか?

唐澤:はい。「なぜカルチャーが重要なのか」、「カルチャーモデルとは何か」、「どうやってカルチャーをつくっていくのか」について、簡単にお話しますね。

まず、釈迦に説法だとは思いますが、GAFAのようなシリコンバレーの成功企業はカルチャーをすごく大事にしています。スティーブ・ジョブズの退任後もアップルが業績を伸ばし続けているのは、カリスマ経営者がいなくなっても大きな混乱が生じないくらいにカルチャーが浸透していたからだと言われています。ネットフリックスも同社の哲学や行動指針をまとめた「カルチャー・デッキ」を公開し、それを非常に重視しています。

一方で日本企業に目を向けると、「悪い数字を上に報告しづらい」といったマイナスの文化の影響で不正会計が行われたりもしています。カルチャーというのは放っておいてもできるものなので、意図をもって作らないとリスクがあるものなんです。

山田:そうですね。

カルチャーはどのように生み出されるのか

(画像提供:唐澤俊輔氏)

唐澤:そもそもカルチャーはどうやってできるのかというと、日々の行動や言動の積み重ねの結果としてそこにある状態で、他社には真似できないもの、これがカルチャーだと思うんです。それには、組織の指針としてのミッション・ビジョン、バリュー、最近ではパーパス、そういったものが影響を与えます。

カルチャーは目に見えない空気のような存在で、「自分たちのカルチャーは何か」と説明するのは難しいですよね。だけど、それを意図をもって設計し、言語化して組織に浸透させていくことが、従業員の満足度や離職率の低下など全てにつながっていくんです。そこで、自社のカルチャーを可視化するために「カルチャーモデル」というフレームワークを作りました。

企業活動の全体像とカルチャーモデル

(画像提供:唐澤俊輔氏)

そのカルチャーモデルが企業経営のどこに位置するのかというのが、この図です。目標としてのミッションやビジョンがあり、それを計画に落とし込むときに事業戦略を定義するビジネスモデルと、組織戦略を定義するカルチャーモデルとの、両輪になるんです。それぞれを実行し、結果としてESが上がればCSも上がり、業績が上がって組織に利益が還元される。このサイクルを回すのが企業活動である、ということになります。

山田:とても分かりやすいです。

カルチャーモデルの「7S」と「経営スタンスの4象限」

カルチャーモデルとは?

(画像提供:唐澤俊輔氏)

唐澤:このカルチャーモデルを作る枠組みが、「7S」のフレームワークです。これはマッキンゼー・アンド・カンパニーの組織運営に関するフレームワークがベースになっています。もともとの「7S」で一番上にくる「Strategy(戦略)」が機能するのはビジネスモデルの方ですから、カルチャーモデルでは代わりに「Stance(スタンス)」を置いています。

まずはスタンスを取り、真ん中にあるShared Vlaue(行動指針)をしっかり固め、他の要素も含めて全体の整合性をとっていくのです。

経営スタンスの4象限

(画像提供:唐澤俊輔氏)

それではスタンスとはなにか? ですが、これは構造的に4つに分けられます。「中央集権型/分散型」、「変化志向/安定志向」の2軸の掛け合わせでできる4象限のどこかに位置するのです。企業によっては「安定寄りの変化志向」みたいな状態もありますが、複数のスタンスを両立させることはできません。つまり、どれかのスタンスをとったら、一貫してそれに適した人事制度や組織構成を作っていく必要があるということです。

他社の成功事例の“いいとこどり”ではうまくいかない

山田:唐澤さんが「スタンスをとる」と言うとき、すごく思いがこもっているように感じます。

唐澤:人事をやっていると、“いいとこどり”したくなることがよくあるんですよね。例えば「チームリーダー経営」をやっている日本の大企業が、「Googleで食堂を作ったら組織文化がよくなった」みたいな話を聞いて食堂を作ってみたりとか。でも、チームリーダー経営に食堂だけ入れたところで、同じ課のいつものメンバーでぞろぞろと食事に行って「安く食べられてよかったね」で終わっちゃう(笑)。Googleは「全員リーダー経営」の自律型組織だからこそ、部門を超えていろいろな人がコミュニケーションをとるために、食堂という場がうまく使われたわけです。

ジョブ型の導入なんかも同様です。世の中の良さそうなやり方を取り入れていったとき、それが経営の他の要素と整合性が取れたものでない限り、効果は出ないし組織としての一貫性が取れなくなってしまいます。だから、経営のスタンスをとったらその方向にしっかりと舵をきりましょうと言っているんです。

山田:7Sの真ん中にはShared Value(行動指針)があって、一貫性の源はそこにあるような気がします。Shared Valueとスタンスの掛け合わせで一貫性をもたせるという理解で良いですか?

唐澤:そうですね。Shared Valueというのは、スタンスによってひとつに決まるものではないんですよね。事業のモデルにもよるし、組織をつくってきたメンバーや経営陣の好き嫌いも入るので。

山田:『カルチャーモデル』には、カルチャーに正しいとか間違っているということはなく、好き嫌いが反映するものだと書かれていましたね。スタンスもそうなのでしょうか?

唐澤:どのスタンスを取るかも、ビジネスモデルにもよるし、経営陣がどうしたいか次第なんですよね。例えば、毎年2%ずつ安定的に業績を伸ばしたいというのもありだし、途中でマイナス成長があっても、長い目で見て伸びていたらいいというのもありです。どれが正解ということはないので、組織としてどれを選ぶかを決めることが大事なんです。

異なる組織での実体験と理論を突き合わせてできた「経営スタンスの4象限」

山田:「経営スタンスの4象限」を構成する2軸は、他にも色々な候補があった中から選んだものなんですか?

唐澤:そうですね。組織を作っていく上で、方向性が大きく分かれるような対立軸をたくさん出して考えました。例えば、「多少雑でも速さを重視するのか、綿密さを求めるのか」、「内向きのカルチャーか、外向きのカルチャーか」など、切り口はたくさんあるんです。

どちらかが良いわけではなく「どっちもあるよね」と思える軸にしたかったのと、組織全体の設計を大きく左右するくらい明確に対立する軸にしたかったんです。あとは、実際に色々な企業を当てはめてみたときに、しっくりくるものを選んだという感じです。

山田:唐澤さんがこれまでに所属されていたマクドナルド、メルカリ、SHOWROOMは、それぞれ違うスタンスを取っていたわけですよね。やはり、経営スタンスが違うとカルチャーも全然違うものだという実感を持っていらしたんですか?

唐澤:それはもう、めちゃくちゃ違いを感じてきました。その違いをちゃんと理論化して可視化したいという思いがありました。理論と実態の両面から突き合わせて、この分類ができあがったという感じですね。

「カルチャーモデル」を実務でどう活かすのか

山田:唐澤さんが実務家として仕事をするとき、「カルチャーモデル」という思考のフレームをどのように活かしていますか?

唐澤:この本を書いた後は何社かのコンサルティングをやらせてもらっていて、それに加えてデジタル庁では中に入って実際に組織づくりをやっています。その際、いきなり「この4象限のどれかに決めましょう」と言っても無理ですよね。まずは現状把握が必要です。

「7S的には、今こうなってるんだな」と把握しつつ、みんなの困りごとなどをヒアリングをしていきます。そうすると「採用に困ってる」とか「新卒中心だから、専門性のスキルが足りない」といった現状が見えてきます。そうすると、「今は4象限の中のこの辺」というのが僕の中で見えてくるんです。

明確な経営スタンスが取れている組織は、大体は上手くいっているんですよ。でも、僕が手を貸すのは、どこか上手くいっていない組織なわけです。その場合「今は『チームリーダー経営』だけど、『複数リーダー経営』に変えたい」みたいなきれいな意思決定はできていないことがほとんどです。

本人たちは「チームリーダー経営」だと思っているけれど、現実は「カリスマリーダー経営」の要素もあり、でもメンバーは「自律的にやりたい」といい出している……みたいな整合が取れていない状況があるので、その状態をまず把握します。

山田:なるほど。いきなり正解をつくるとか、絶対にこの方向に変えようとか、そういう考え方をされていないんですね。

唐澤:そうですね。まずは現状を可視化することが大切です。

読者の方が「『カルチャーモデル』をこういう風に使ってます」と教えてくれたんですけど、その会社では、「自分たちが今、4象限のどこにいて、どこに行きたいのか」を経営陣一人ひとりがプロットしたそうです。そうすると、経営陣の中ですら、思った以上にバラバラだったことが可視化された(笑)。それをきっかけに、「やっぱり『カリスマリーダー経営』じゃ限界があるから変えていかないと。権限移譲していく? マネージャーを増やす?」みたいな会話が始まるんですよね。現状の可視化が最初にあって、「課題は何?」という話になり、その課題をひとつひとつ解消していこう、という順番でしょうね。

理想と現実のギャップを可視化すると、やるべきことが見えてくる

山田:デジタル庁の組織開発は、どうやって進めているんですか?

唐澤:「経営の4象限」の図を見せたりはしていませんね。

山田:そうなんですか?

唐澤:官公庁の組織が「チームリーダー経営」でやっているのは分かっているし、それを「全員リーダー経営」に変えていきたいというのも分かっていますからね。一方で構造的にできないことも色々あり、伝統的な日本型組織に慣れた役人のたくさんいる中、民間の人間がパッと出ていって「僕が本に描いたフレームワークです」なんて言っても聞いてもらえないでしょう(笑)。

まずは幹部を中心にたくさん会話をしたり、職員対象のサーベイをしたりして、今の課題はなにか、職員の期待はどこにあるのか、といったことをあぶり出すことが重要だと思います。

山田:現状を把握した後で、「目指すスタンスに対して一貫性のある状態にするには?」という議論が始まるわけですね。

唐澤:課題というのはあるべき理想の姿と現実とのギャップだと思うんです。時間をかけて理想像をすり合わせれば、「それをやるには、これとこれが足りない」ということが明確になります。それが人事制度であったり、組織文化形成であったりするんですよね。

目指す経営スタンスによって、変革のプロセスは変わる

山田:組織文化を形成していくときにどこから手を付けるのか、唐澤さんの中にセオリーはありますか?

唐澤:4象限のどのスタンスをとるかによって、アプローチする順番が変わります。

たとえば、デジタル庁では、縦割りを排除し、プロジェクトベースの組織をつくりたいという方針は設立当初から決まっていました。この方針を僕なりに整理すると、「チームリーダー経営」的な官公庁にありながら、フラットで自律的な組織を志向する「全員リーダー経営」っぽいやり方にチャレンジしているということになります。。ただ、過半数の職員は役人で、そこに民間出身の人材が200名ほど加わったからといって、急には変わりません。

こういう状況で「全員リーダー経営」を目指すのであれば、一番にやるべきは、ミッション・ビジョン、そしてバリューをすり合わせることです。いくら自主性を認めるといっても、各々が好き勝手にやりだしたら一枚岩にはなれません。最低限の基準が必要ですよね。

そこで(2021年)7〜9月にワークショップを何度かやって、9月のデジタル庁設立時にはミッションとビジョンを発表し、10月にはバリューを発表しました。バリューの発表を少し遅らせたのは、9月入庁者がたくさんいたので、バリューをつくる過程にその人達も一部入ってもらいたかったからです。

もしバリューをトップダウンで決めてしまったら、「『カリスマリーダー経営』で行きます」と宣言しているようなものですよね。全員でやるということにこだわって、そのプロセスで「分散型ってこういうことか」「ボトムアップってこういうことか」と体感していくことが大事です。

山田:なるほど。それをつくるプロセス自体が、目指す経営スタンスを体現するわけですね。

唐澤:そのとおりです。

山田:例えば上場前後のベンチャーで、それまでは創業メンバーの力で引っ張ってきたけれど、もう一段階成長するためには、もっと組織力を高めていかなければいけない、というような場合はどうでしょう?

唐澤:そういうご相談は、すごく多いですね。中央集権型から分散型へと4象限の下の方に行きたいわけですが、プロダクト中心のテック系の会社であれば「全員リーダー経営」を目指すことが多いし、製造業などもう少し安定志向の会社だと「複数リーダー経営」に行こうとする傾向があります。まずは経営陣と話し、どちらの方向にいきたいのかを明確にします。

その上で、仮に「複数リーダー経営」だとなれば組織図の設計と権限移譲をセットでやることが肝要です。各事業や各責任者にちゃんと目標をもたせ、その目標をしっかり達成することで確実に数字を取る。同時に、一定の権限移譲をすることで、事業をスケールさせていくということが肝になります。

山田:確かに、「これは誰の権限?」みたいな状態だと、中央集権型のスタイルを抜け出せないですね。

唐澤:そうです。だから、どこを目指すかによって、それぞれの肝があるはずです。

時間をかけて「7S」をアップデートしていけば、カルチャーは変えられる

山田:いろいろな要因で、これまでのカルチャーや経営スタンスを変えたいと思うタイミングがあると思うのですが、変えることはできる、というのが唐澤さんの考えですか?

唐澤:はい。

山田:その場合、変えやすい組織、変えにくい組織、というものがありますか?

唐澤:組織文化は長年の積み重ねでできているものなので、歴史が長くて所属する人が多く、文化の色が濃いほど、変えにくいんだと思います。慣性が働いていますから。

でも、それ以外は特にないんじゃないですかね。たしかに、トップにその気がなければ変わらないとか、その下のレイヤーにいる人が過去の成功体験を積み上げちゃってるから変えにくいとか、そういうことはありますよ。でも、それは変えていく上での難所というだけで。

山田:そうなんですね。カルチャーを変えるのってすごく大変そうで、無理なんじゃないかと思ってしまうこともあるのですが。

唐澤:時間はかかりますよ。5年、10年かけてやるということが前提です。でも、ちゃんとコミットを取って、ひとつひとつ丁寧に設計して「7S」を全部アップデートしていけば、組織はまるっと変わるんです。

富士通さんは、ジョブ型を中心に「7S」の全部を入れ替えていますが、最初はサーベイから初めて課題を徹底的に可視化したと聞いています。それを経営陣に突きつけ、ミドル層のポストなどを公募し、抜擢もし……ということをやっているそうです。

山田:人の入れ替わりも伴う変革ですね?

唐澤:そうです。「僕たちの会社はスタンスを変えます。新しい組織や新しいやり方に変えていくことにコミットできる方だけが残ってください」ということをやらないと、できない改革です。すごく痛みを伴うので、「本当にやりますね?」ということをよく確認する必要があります。

僕がメルカリを辞めたのも、「全員リーダー経営」から4象限の右側の「チームリーダー経営」や「複数リーダー」経営の方に寄せていくというタイミングでした。それまでは世の中のトップタレントを採用して、なるべくルールは作らずに自由に能力を発揮してもらうというスタイルだったんです。それが、もっとスケールさせていくためには誰が入社してきても一定のパフォーマンスを出せるような組織にしていこう、そのためには最低限のルールも必要だ、という話になっていたんですね。

それは一つのやり方です。ただ、ルールなしでやっていく組織の旗振り役だった僕が残るのは、組織にとってよくないと考えました。それに、自分もそれまでの経営スタンスが好きでメルカリにいたので、みんなにも自分にも嘘はつけないと思ったんです。辞めるときは、「会社が変わるから俺は離れる。お前らは、残るならちゃんと変われよ」とみんなに言いました。それが、組織を変えるときに必要な新陳代謝なんだと思います。

まずは自社の状況を客観的に認識し、それからスタンスを決める

山田:このプロジェクトで企業の実態調査をしていても、全体的に分散化の方へと向かう流れが見えます。それが今の時代において合理的なんだろうと思う一方で、ちょっとトレンドになりすぎているという気もするんです。企業がそれぞれに経営スタンスを選択した上でやっていくのが大事ですよね。

唐澤:左下の「全員リーダー経営」に行きたいという思いは分かるのですが、そこに本当にフィットする人材にしていくのはものすごく大変ですよ。「多様性を上げて、みんなに任せて自由にやらせればイノベーションが起こるんでしょ?」って言われるんですけど、多様性を活かす素地がなければそうはなりません。

日本の会社の人と話していてすごく特徴的だなと思ったのが、「バリュー、バリューって言われますけど、そんなの浸透させたら多様性が失われてイノベーションが起きなくなるんじゃないですか?」という質問です。

正直、最初は質問の意味が分かりませんでした。バリューと多様性って両方あるから効果を発揮すると僕は捉えているのですが、矛盾するものだと捉える方もいるんだなと。でもよく考えてみると、前提の違いだということに気づいて。新卒採用をして会社の色に染め上げていくような日本企業では、バリューなんて言わなくても考え方や行動が一致しているんですよね。

化学反応によるイノベーションを起こしたいのであれば本当に多様性を上げていく必要があるし、そうすると全然違う人たちが入ってきます。価値観くらいは揃えないとバラバラになるよ、という話を僕はしていて、前提となっている組織の状態が全く違っていたわけです。

山田:このプロジェクトのフェーズ3では、組織が分散化や流動化を目指すときに必要なアクションを考えていきたいんです。でもそれは、組織の現状がどこにあるのか、どのくらいの幅で変化したいのかによって、大きく異なってきそうですね。

唐澤:そう思います。特に新卒採用中心の日本の企業は、他社と比較しての相対的な自己認識が苦手なんですよ。中途採用の社員がいれば、「この会社はこうだね」って客観的に言ってもらえるのですが。

山田:「前の会社はこうだった」という違う観点を持ち込んでくれるし、ナレッジも共有されますからね。そうじゃない会社も、まずは現状を把握しなければ変わることはできないと。

唐澤:思い込みではなく、どれだけ謙虚に自己認識できるかが大事です。カリスマリーダー経営をやっている人は「俺は権限移譲している」って必ず言いますから(笑)。でも、最後にちゃぶ台をひっくり返すんだったら意味がない。まずは現状を把握し、次にスタンスを決めて一貫性をもたせていくことが重要です。

山田:納得です。

組織の作り方をスタートアップ寄りにしていくことが求められている

唐澤:分散化や流動化がトレンドになりすぎているという面も確かにありますが、僕は、日本の組織の作り方をスタートアップに寄せていく必要があると思っています。

山田:スタートアップのような組織に変えていくということですか?

唐澤:はい。その理由のひとつは、DXの推進をしていくためです。今の業務プロセスを単にIT化するのではなく、顧客への価値の提供プロセスをまるごとアップデートするには、縦割り組織じゃ無理なんです。顧客に対してプロジェクトベースで横断的にやらなきゃいけないし、権限移譲が必要です。プロジェクトベースにすると、管理職は縦のラインのメンバーのことを把握しつつ、彼らが参加しているプロジェクトのことも把握しなければいけなくなる。そうなると、情報共有の仕方もクラウド化するとかSlackでオープンにやるといった形に変えていかなければなりません。

山田:組織構造も評価のシステムも変わって、結局「7S」全部が変わってくるわけですね。

どういう風に変えようかというときに、DXに適した組織の知見がたまっているスタートアップの方に近づけていくのが良いということですか。

唐澤:そうですね。スタートアップのコミュニティの中では、失敗の経験も含めて情報共有がされています。彼らがこれからの組織の最先端になるのは必然だと思います。

もうひとつは、岸田首相も「スタートアップ創出元年だ」と言っていて、国としてスタートアップを成長させていこうという判断がなされています。エコシステムをつくり、みんなでスタートアップを支援しながら、新しいビジネスを成長させていこうという流れがあります。

そうなると、大企業もスタートアップと組まないと取り残されてしまう。そのためにはスタートアップ的な動きができないといけません。「これ、一緒にやりませんか?」と言われて「社内の稟議があるので、2週間お待ちください」なんていう会社とは、スタートアップは組みませんからね。DXの観点と社会的な要請との両面から、日本の企業をスタートアップ寄りにしていく必要があるわけです。

山田:なるほど。

唐澤:僕は今年のテーマの一つとして、既存企業にスタートアップカルチャーを浸透させていくという話をしていこうと思っているし、このプロジェクトでも、そういう提言をしたいですね。

山田:そうですね。なぜそれが必要なのかということと、具体的にどうすればいいかということ、両方を提示したいと思います。ぜひ、よろしくお願いします。

唐澤俊輔

Almoha LLC 共同創業者COO
デジタル庁 人事・組織開発

新卒で日本マクドナルドに入社後、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、全社のV字回復に貢献。メルカリに身を移し、執行役員 VP of People&Culture 兼 社長室長として人事・組織の責任者を務めた後、SHOWROOMにて最高執行責任者(COO)として、事業と組織の成長を牽引。その後、Almoha LLCを共同創業し、組織開発やカルチャー醸成のコンサルティングおよび、組織開発のためのサービスやシステムの開発に取り組む。また、デジタル庁にて人事・組織開発を担当。グロービス経営大学院 客員准教授。『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』著者。

© Thinkings Inc. All rights reserved.