サマリー記事

組織再考計画

「未来への仮説」ができるまで

2021年8月にスタートした組織再考計画(Re-Thinking Organizationsプロジェクト)は、活動期間全体を3つのフェーズに分け、第1フェーズでは今後重要となる「日本の経営環境の変化」に関する仮説を設定すべく検討を重ねてきました。

ここでは、そのプロセスをレポートします。私たちの思考過程を追体験していただくことで、仮説に対する納得度を高めていただければ幸いです。

<フェーズ1 検討メンバー>

瀧澤暁(プロジェクトリーダー) / Thinkings株式会社 代表取締役会長
⼭⽥裕嗣(プロジェクトファシリテーター) / 株式会社令三社 代表取締役
岩本卓也/株式会社Polyuse 代表取締役CEO
嘉村賢州/場づくりの専門集団NPO法人「場とつながりラボhome’s vi」代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織』(英治出版)解説者

<フェーズ1 アドバイザー>

垂水隆幸 / コーチング.com株式会社 代表取締役
日渡健介 / NPO法人Talking 代表

<フェーズ1 プロジェクトサポート>

関美穂子(グラレコ) / アラワス 代表
やつづかえり(ライター)

仮説にたどり着くまでの試行錯誤

企業を取り巻く様々な変化の可能性。どれに注目すべきか?

8月27日に行われた第1回ミーティングでは、全メンバーが以下の3つの質問への回答を用意して集まり、議論しました。

<企業を取り巻く変化のトレンドに関する質問>
Q1. 「長い時間軸(10年〜数十年単位)」での変化が起きていると感じることは?
Q2. 「短い時間軸(数ヶ月〜数年単位)」での変化が起きていると感じることは?
Q3. その中でも、「3年後に特に重要になる」と感じているものはどれか。

非常に幅広い意見が出ましたが、大きく分けると「社会が企業に求めることの変化」「働く個人の意識の変化」「技術の進展」「世界における日本の立ち位置の変化」にカテゴライズできそうです。メンバーそれぞれ、自身の仕事などを通じて肌で感じていることも多く、企業経営のあり方が大きく変わっていくことは必然だと感じられるキックオフとなりました。

(第1回ミーティングで挙がった、短期および長期での変化のトレンド)

日本の経営環境の今後について仮説を立てるに当たり、本プロジェクトでは「シナリオ・プランニング」の手法を用いました。

VUCAと呼ばれる時代において、予測される変化の多くは、起きる可能性や変化の度合いが不確実。「こうなるかもしれないし、ああなるかもしれない」という両方の状況について考えておくことが必要です。
※シナリオプランニングについては、新井宏征氏に基本的な考え方から本プロジェクトならではのポイントまで、詳細に教えていただきました(インタビュー記事リンク)

シナリオ・プランニングにおいては、そのような不確実な変化の中でも重要度の大きなものを2つ選んでマトリクスを作成し、4つの未来像を検討します。しかし、今回挙がった様々な要素はどれも重要そうで、軸となる2つをどう選ぶのかは非常に悩ましい問題でした。

検討のスコープを「組織/組織運営」に絞る

そこで3回目のミーティングからは、検討のテーマを「企業経営」全体から「組織/組織運営」に絞ることにしました。その上で再び議論し、以下の4つの鍵となる問いが浮かび上がりました(これらの意味など、詳細は後述)。

  • 1.「高付加価値helper」の存在
  • 2.「サバイブモード」によるドライブ
  • 3.世界の中での日本の地方化
  • 4.「生態系」としての組織観

ここから、影響度が高くて確実に起きるであろうこと(シナリオ・プランニングにおける「ベースシナリオ」)を整理した上で、「社会」と「個人」の変化を軸にマトリクスを作ってみることにしました。

試しに作ってみることで“筋の良いシナリオ”というものが見えてくるのではないか……そんな期待のもと、先の4つの問いをヒントに3パターンのシナリオを作成しました。

シナリオ1

「社会の変化:グローバル化⇔ローカル化」×「個人の変化:経済性への興味が強まる×自己表現への興味が強まる」

シナリオ2

「社会の変化:企業への所属が流動化⇔固定化」×「個人の変化:経済性への興味が強まる×自己表現への興味が強まる」

シナリオ3

「社会の変化:1つの物差し⇔多様な物差し」×「個人の変化:経済性への興味が強まる×自己表現への興味が強まる」

どのような組織を対象とするか

仮説づくりにおいてもうひとつの懸案が、「どのような組織を対象とするか」ということでした。シナリオが示す未来の社会、個人のあり方が組織にどう影響を及ぼすのか、それは組織のカタチや状態によっても異なるはずだからです。

「大企業/中小企業」「老舗企業/スタートアップ」「営利企業/非営利企業」といったよくあるカテゴライズでは、この問題は解けそうにありませんでした。

メンバーからは、その組織の価値観や文化、事業のライフサイクル、ビジネスの構造、パーパスの持ち方、人材に対する求心力のあり方など、様々なカテゴライズの要素が挙がりました。

(組織の種類を分ける要素について、メンバーから挙がった意見)

しかし、なかなか「これだ!」という分類方法が見つかりません。そこで先に作成したシナリオを用い、それぞれの各象限において影響を受けそうな、あるいはその方向に進んでいると思われる具体的な企業名を当てはめてみました。

この作業により、3パターンあった縦軸のなかでも「1つの物差し⇔多様な物差し」という社会の変化を想定してみると検討が進めやすいのではないか、ということが見えてきました。

(先の<シナリオ3>にシナリオ3に具体的な企業名を当てはめてみた例)

2つのシナリオの掛け合わせで考える

このような検討を経て、最終的には「社会の変化を表すシナリオ」と「個人の変化を表すシナリオ」の2つを作成し、それを組み合わせて組織への影響を分析するという形で、フェーズ1の仮説がまとまりました。

2つのシナリオを元にどのような仮説が設定されたのかは、文末にあるスライドをご覧ください。ここでは補足として、検討過程で出てきた重要なキーワードについて説明します。

ベースシナリオと4つの問い

ベースシナリオ

シナリオ・プランニングにおいて、検討テーマに対して大きな影響があり、かつ起きることが確実な変化を「ベースシナリオ」と呼びます。フェーズ1では、以下の5つをベースシナリオとしています。

1.「地球環境」というリミット

ここ数年で、日本においてもSDGsやESG投資への注目度が急速に高まっており、限りある地球資源を前提とした経営が必要との認識され始めています。

ただし、この問題が日本社会においてどれだけ重視され、影響を及ぼすかは未知数です。本プロジェクトでも「社会」の変化のマトリクスでは「経済原理の風潮が加速/持続可能性の風潮が加速」という横軸を設定し、どちらに振れるかによって異なる未来像を描いています。

2.多様な「ステークホルダー」

地球環境の話とも相まって、企業は株主の利益を第一に考えていれば良いという時代ではなくなりつつあります。顧客、取引先、従業員、地域社会など、企業活動に関連する多様なステークホルダーを考慮した組織運営が求められます。

ステークホルダーの範囲をどう考えるかによって、社会の変化のシナリオの上の象限(大きな1つの社会)に行くか、下の象限(多様な個別の社会)に行くかが異なってきそうです。

3.「高齢化」と「少子化」

日本は若年人口の減少、高齢者人口の増加が同時に進行し、2040年には日本の労働人口の中心が65-69歳となると推計されています。

高齢化の研究を続けておられる日渡健介さんにお話を伺ったところ、他の先進国でも高齢化は進んでいるものの、そのスピードや、少子化、人口減少の状況は必ずしも同じではないとのこと。今後、日本に特有の社会構造を前提にビジネスや組織運営を進めていく必要があります。

4.「働き方」の多様化

新型コロナにより、社会全体としてリモートワークに対する適応が進みました。感染状況の緩和によって出社の割合が増える傾向もあれど、「常に出社」という世界に戻る可能性は低いでしょう。また、企業がフリーランスを活用するなど雇用のあり方にも変化が見られ、それが労働法制などにも影響を与えることが見込まれます。

5.「世代」による価値観

働き手の意識が変化している、組織の中の世代間でギャップが広がっているという指摘は、プロジェクト発足当初から度々なされてきました。例えば、組織の中のZ世代の割合が増えていくに従い、彼らの価値観が組織や社会全体に与える影響も大きくなっていく可能性があります。

4つの問い

社会と個人、それぞれの変化に着目した2つのシナリオを作るに当たり、重要な鍵になったのが以下の4つの問いでした。

1.「高付加価値helper」の存在

あるプロジェクトメンバーから、組織としては常に高度な人材を求めているものの、実際の組織にはスキルもモチベーションも様々な人材が混じり合っており、それを一緒にマネジメントするのが難しい……という実感を語られました。それに対して他のメンバーが紹介したのが、組織内の人材を以下の3つに区分して捉えるソース理論(Source Principle)の考え方です。

  • ・ソース(Source):組織のビジョンやパーパスを自分のものとし、リスクを引き受けてイニシアチブを取る人(創業者や、創業者と同等にビジョンを理解して組織を主導できる人)
  • ・スペシフィック・ソース(Specific Source):特定の範囲においてはソースの役割を担える人
  • ・ヘルパー(Helper):ソースのビジョンを実現するためにスキルや時間を提供する人

企業としてはソースやスペシフィック・ソースを担う人材を求めがちですが、実際にはヘルパーもいて事業が成り立っているわけです。

さらに、今の日本の組織では「高付加価値helper」とでも呼ぶべき人材がたくさん存在しているのではないか? という指摘がなされました。

背景には、統率しやすく生産性の高い人材として、企業がそのような存在を求めてきたということがあります。その結果、個人は高付加価値helperとして評価を得ることに駆り立てられながら、自分の人生のパーパスに向き合うことができない(ソースになれずにいる)というストレスも抱えている人も多そうです。

今後も高付加価値helperが必要とされ続けるのか、あるいはソースやスペシフィック・ソースの割合が高くなるのかは、産業構造や技術の進展などによっても変わってきそうです。

2.「サバイブモード」によるドライブ

働く人が「高付加価値helper」として駆り立てられているということとも関連して、「人生をサバイブしていかなければ」という感覚が強い人が多いのはなぜなのか? という問いが浮かび上がりました。

理由としては、血縁や地縁で職業や就職口が決まった時代と比べて仕事の選択肢が広がった分、自分を「売り込む」という意識が一般的になったこと、生育環境や、「成長」や「成功」が尊ばれる文化の影響など、様々な要因が考えられます。

このような動機づけが今後も強く働き続けるのかどうかで個人の働き方も大きく変わってくるのではないか。そんな洞察から、個人の変化のシナリオに「サバイブを重視/自己表現を重視」という軸が採用されました。

3.世界の中での日本の地方化

最初のミーティングで、海外に行ったときにグローバルにおける日本の存在感の小ささを感じたというエピソードが語られ、多くのメンバーが同意しました。それは一見寂しいことではあるものの、悪いことばかりではないという意見も。日本の中でも地方からイノベーティブな動きが起きていたりすることを考えれば、世界の辺境になることで真の変革が起こりやすくなる可能性もあるのではないか、という指摘です。一方、機会や報酬を求めて人材が流出していくことも考えられ、企業にとってはチャンスにも脅威にもなり得る変化でしょう。

4.「生態系」としての組織観

今後の組織のあり方を考えたとき、それを単一の境界線で捉えず、生態系のようなものとして捉えることができると可能性が広がるのではないか、と考えました。

具体的には2つのイメージがあり、ひとつは一つの組織の中にたくさんの独立した組織が生まれていくような組織内生態系。もうひとつは複数の組織が緩やかに集まって連帯するような組織間生態系です。個人としても、生態系の中での移動や複数の所属をすることで、ソース、スペシフィック・ソース、ヘルパーといった役割を変えて適応していくことも可能になりそうです。

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有識者インタビュー

新井宏征

「シナリオ・プランニングの第一人者に聞く、
筋の良いシナリオの作り方と使い方」

新井宏征株式会社スタイリッシュ・アイデア
代表取締役

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