組織再考ラボ(Re-Thinking Organizations Lab)

社内で人を活かせない構造的な理由

社内で人を活かせない構造的な理由

──組織戦略づくりの難易度が上がる中、社内の人をどう活かすかへの関心が高まっています。その背景をどう見ていますか。

注目される背景には、複数の要因があります。まず、昨今の激しい事業環境の変化にあわせた組織づくりは、難易度が上がっています。人的資本経営が推進されるなか、企業では社員の自律的なキャリア形成を支援する動きが進み、具体的な施策の一つとして「社内公募」に取り組む企業が増えています。

同時に、採用環境も厳しさを増しており、外からの採用だけでは事業計画通りに人材確保ができないという危機感も高まっています。こうした複合的な背景から、社内にいる人材への注目が高まっています。しかし「外から採用できないから、社内で」というほど単純な話ではありません。

というのも、多くの企業では外部採用と内部異動が連携できていません。私が見てきた企業の多くでは社内公募は年1〜2回のイベント的な運用にとどまっています。異動のタイミングと連動しているため、「今すぐこのポジションを埋めたい」と思っても、社内の人材に対して即時募集する術がないのです。

こうした背景には、日本企業特有の構造があると思っています。多くの企業では人に仕事が紐づいているため、「Aさんの代わりを探す」と言ってもAさんと全て同じ仕事ができる能力を持った人が見つからないケースが多い。しかしAさんが行っている仕事を分解すれば、その一部は既存メンバーでカバーできるはずです。

そこで必要になるのがジョブディスクリプション(以下、JD)です。仕事を人から切り離し、役割として明確にする。それが、社内の人が最適な役割で活躍するための前提条件だと考えています。

まずは現状。ボトムアップなジョブディスクリプション

──JDの重要性は理解できますが、実際に作ろうとすると難しいという声も多いです。

よくある失敗は、理想像から作ってしまうことです。To Be(あるべき姿)から描くと、現場の実態と乖離した高スペックなJDになり、結局運用されません。

機能するJDを作るには、まずAs Is(現状)を可視化することです。同じ職種でも担当者によって業務内容やその認識、発揮している能力は異なります。その実態を明らかにし、共通する部分と個別の部分を整理する。そこから「本来はこうあるべき」というズレを補正していく順番が重要です。

実際に行われている方法で有効なのは現場主導のワークショップです。会社や人事がトップダウンで定義するのではなく、現場社員が自らの仕事を言語化し積み上げていく「ボトムアップ型」のアプローチ。自分で言語化するからこそ納得感が生まれ、運用が定着します。

このプロセスはAI活用でより簡単にできると考えています。AIとの対話で社員が業務を言語化し、それを集積してJDを作る。事業や組織の変化に合わせて更新し続けられるサイクルこそが、これからの組織には必要だと考えています。

先進企業が実践する「社内インターンシップ」

──今すぐ始められる取り組みや参考になる事例はありますか。

いきなり異動ではなく「お試し」から始める企業が増えています。異動を伴うと後任の確保の難しさやミスマッチのリスクもあるため、まずは体験を通じて仕事内容の理解や自らの適性を確認できる仕組みを設けるんです。

例えばある大手金融グループでは、最大5日間の社内インターンシップを実施しています。学生向けのインターンシップのように、興味のある部門の業務を体験し、自らにマッチすると思えば正式な異動制度に応募する。実際にこの仕組みを経て異動した社員も多いと聞いています。

大手通信企業では業務時間の2割を社内副業に充てる制度があり、副業での成果も人事評価に反映されます。また、ある製薬会社では社内副業先を会社が用意するのではなく、本人が希望部門に直接交渉して獲得する方法を採用しています。社外副業を認める際に「社内でもできたらいいのでは」と始まった取り組みだそうです。

これらの事例に共通するのは、風土がないから無理だと諦めるのではなく、仕組みによって「選ぶ・選ばれる」機会を作っている点です。社員が自らキャリアを選択する機会を作ることで、結果として社内で人が動くのが当たり前な風土が徐々に醸成されていく。制度と風土をセットで育てていく取り組み例として、参考になると思います。

社内外を分けない人材市場を、どうつくるか

──すぐに大きな制度改革は難しいという企業も多いと思います。小さく始めるなら、何からでしょうか。

採用の場面で「社内異動で対応できないか」を問う習慣をつけることです。多くの企業では採用担当と配置担当が分かれています。その両者が席を並べ、現場から採用依頼が来たとき、外部採用か内部異動かをフラットに議論する機会をつくるだけでも変化につながるでしょう。

最も重要なのは、社内・社外を分けずに、両方を合わせた人材市場として捉え直すことです。社外に向けて募集しているポジションに対して、社内からも応募できるような仕組みをつくることが理想です。

また、採用したいポジションのJDを書いてみるのも有効です。外部向けの求人票ではなく、「この仕事に必要なスキルは何か」を言語化する。書いてみると「実は社内にこのスキルを持つ人がいるのでは」と気づくことがあります。

さらに、社内にある仕事と、その仕事に必要なスキルを可視化することで、社員自身にとってもキャリアを考える材料になります。社内の仕事と社外の求人を比較できるようになれば、社員はより広い選択肢から自分に合ったキャリアを検討できます。その結果、キャリア選択のリスクを下げつつ、成長や挑戦の機会を自らつかみにいくことも可能になります。

こうした取り組みは人的資本開示の観点からも重要です。女性管理職比率やDX人材数といった形式的な数字ではなく、社内公募の実施頻度や外部採用と社内異動を同時に検討した件数など、人材流動の実態を示す指標やありたい組織にどれだけ近づいているかを開示することこそ意味があるのではないでしょうか。そしてそうした指標を出すには、JDやスキルの定義が前提になります。

キャリア採用が通年で行われているように、年1回の社内公募を、必要なときに即時募集できる仕組みへ。採用と配置を一体で考える土台を、少しずつでも作り始めてほしいですね。

森田 徹(もりた とおる)について

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