組織再考ラボ(Re-Thinking Organizations Lab)

組織を動かす“佐藤流”人事の哲学とは

キャリアチェンジから組織変革の最前線へ – 人事の仕事を通じて見えてきた新しい可能性

──人事というキャリアを選んだ理由や、これまでのキャリアのターニングポイントについて教えてください。

29歳の頃、コンサルティング業界から人事の世界に飛び込んだのが、私のキャリアの大きな転換点の一つでした。当初は手探りでしたが、様々な選択肢を検討する中で、人事という領域に可能性を感じ、挑戦を決意しました。結果として、この選択が今の自分につながっています。

そしてもう一つの転機が40歳を超えた頃です。居心地のいい環境で人事の仕事を続けるという選択肢もありましたが、あえて厳しい道を選びました。合併で混乱する会社への転身、リクルートワークス研究所が発刊する人事専門誌『Works』編集長への挑戦、ベンチャー企業でのCHROを経て、現在は人材育成や組織開発の領域を担当しています。安定を選ばず、課題の多い環境を求めて動いてきました。

「探究的」に取り組むことで広がる、人事キャリアの可能性

──人事という仕事で、キャリアを確立していくために必要なことは何でしょうか。

人事の仕事に限らずですが、「探究的」に取り組むか「受動的」に取り組むかの違いが大きいと思っています。私の場合、採用、育成、評価制度、労務やメンタルヘルスなど、様々な領域に興味を持って深く学んできました。例えば、メンタルヘルスに関しても人事としての初期対応を円滑に実践し、産業医やカウンセラーにバトンタッチすれば役割は完結しますが、自らの探求心から専門知識を勉強し、治療方法や回復のプロセスまで幅広く理解を深めました。

こうした探究的な姿勢は、時として「必要以上」と思えるかもしれません。しかし、長期的に見ると、それぞれの知識がつながり、より広い視野で課題に対応できるようになります。特に年齢を重ねていくと、この違いが大きな差となって現れてきます。

「人生一度きり、成功も失敗も財産」というマインドセットで乗り越える

──人事の仕事で直面する困難には、どのように向き合ってこられたのでしょうか。

人事の仕事には、評価されやすい領域と評価されにくい領域があります。採用や育成は現場の課題解決に繋がるのでポジティブな評価を得やすい一方、評価制度や報酬制度は構造的に不満の声が出やすい。例えば、評価制度の改定では、全社のエンゲージメントが一時的に下がることがあります。しかし、会社の将来を担う優秀な人材の定着や動機付けを優先した改定であれば、痛みを伴う越えるべきハードルといえます。表面的な数値だけでなく、本質的な効果を見極めることが大切です。

私は難しい課題に直面したとき「人生一度きり、成功も失敗も財産」という考え方で向き合ってきました。お笑い芸人が日常からネタを作るように、成功した経験もうまくいかなかった経験も次につながる「引き出し」として活かしていく。人生は一度きり、やらない後悔だけは避ける。この考え方が、難しい判断を続けていく上での支えになっています。

組織の持続的成長のために必要な「適所適材」

──佐藤さんは市場の人材流動性に関しても問題意識をお持ちだと思います。組織の新陳代謝についてどのようにお考えですか。

新陳代謝という言葉は誤解を招きやすい。実際に必要なのは「適所適材」という考え方です。世界では環境変化や技術革新で様々な業界で変革が起きています。生成AIの進化でエンジニアへの要件は様変わりし、EVシフトで内燃機関の研究者はキャリアの転換を迫られています。これは変化の予兆であり、ビジネス環境に応じて求められる役割が変化していく表れです。

日本では解雇規制の厳しさとキャリア自律意識の低さから、この動きが進みにくい。ジョブ型推進やリスキリングなど官民で動きつつありますが、ルールが変わらなければ本質的な危機感は生まれません。極論ですが「全員有期雇用」のようなことをしない限り、キャリアへの考え方は変わらないでしょう。急速な変化が必要なビジネスもあれば、長期的視点が必要なビジネスもあり時間軸は様々ですが、各特性に合わせた柔軟な制度で、企業や業界を越えた適所適材の実現が日本の未来には不可欠です。

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