組織再考ラボ(Re-Thinking Organizations Lab)
キャリアを意識し、人事の道を歩み始めた原点
──永島さんが今のキャリアを築かれた原点と、どうして人事領域に進まれたのか教えてください。
ソニーUSAでマネージャーに就任後、「スタッフのキャリアを考えたコミュニケーションが取れていない」と人事部長から厳重注意を受けました。雇用契約の解消が容易なアメリカでは、スタッフは当然の権利としてキャリア支援を要求します。この経験から、マネジメントには数値目標だけでなく部下のキャリアにも向き合う必要があると学びましたが、当時の私は自身のキャリアについてはまだ深く考えていませんでした。
転機となったのは40歳前。ニトリの似鳥会長(当時社長)との入社面談で「もっと未来に向けて大きな志を持たないと大成しない」という言葉をいただき、本当の意味で自身のキャリアや仕事の意義を考えるようになりました。
その後、ニトリに入社することになり、ニトリの店舗勤務を通じて30年の増収増益を支える「優秀な人材が次々と育つ仕組み」を体感し、組織に興味を持ちました。採用や育成に携わる中で、新しい役割を与えると驚くほど成長する社員の姿を目にし、個人と組織の成長に貢献したいという思いが一層強くなっていきました。
ニトリでの人事部長時代:失敗から学んだ人材配置
──それから実際に、ニトリで人事部長としてご活躍されましたが、当時を振り返って印象深いエピソードはありますか。
人事部長として人材配置を担当した時、「優秀な人材はどこでも活躍するはず」という思い込みがあり、優秀な店長を本部の要職に抜擢しました。しかし彼は半年で現場復帰を希望。私の采配は失敗となりました。本人のWillを確認せず、配属理由や期待を明確に示さなかったことが原因です。
この失敗経験から、社員個人が30年先までの将来を考える「30年キャリアプラン」という自己申告制度を導入しました。さらにタレントマネジメントシステムも活用し、データに基づく人材配置を確立。評価や適性検査など多角的な条件で人材プールを作成し、「評価が低いが実は優秀」や「コミュニケーションは苦手だが成果は高い」など、表面的な評価では見落としがちな才能を発掘できるようになりました。
未来の価値を伝え、ブランド力に頼らない採用を
──組織開発に関係する永島さんの知見を伺います。採用における「ブランド力」とは何を指すのでしょうか。
まず、押さえておくべきは企業ブランドと採用ブランドが異なる点です。多くの伝統的な大企業が用いるのが、企業ブランドです。これは現在の強みや過去の実績や歴史を中心に語るものです。一方、採用ブランドは「未来の姿」を示すことが重要です。例えば10年かけて会社がどうなっていくのか、そこでどんな人材が必要になるのか。現時点でブランド力が高くない企業でも、この未来像を語ることで大手企業と対等に渡り合えます。
そして、最も重要なのは未来に向かうストーリーの描き方と伝え方です。これは「価値創造ストーリー」と言われ、人的資本経営でも最重要視されるものです。成長環境を求める若い方が増えており、そのような方は未来に向かって伸びる姿勢を示している企業を選ぶ傾向があります。目の前のエビデンスよりも、その企業で働く未来価値とそこに至る道筋を示すことで、優秀な人材の心を動かすことができるのです。優秀な人ほど、自分の時間をどこに投資するか、その未来価値を吟味するからです。
アルムナイ人材×組織開発
──中央大学に企業アルムナイ研究会を立ち上げたと伺っております。アルムナイ人材に注目される理由、今後の展望について教えてください。
企業と退職者が持続的な関係を保つことで、双方に価値が生まれます。企業の規模や離職率によって異なりますが、年々退職者が増えていけば、企業規模に匹敵する「元・社員」のコミュニティが形成されていきます。この人材プールは、再雇用や業務委託の候補となるだけでなく、リファラル採用や外部ネットワークの拡大など、様々な形で組織に貢献し得ます。活躍する卒業生の存在が、現役社員にとっても誇らしくなることもあるでしょう。
現在、こうした価値創出を実現できている企業は少ないのが現状です。アルムナイ組織が機能すれば、商談機会の創出や情報交換など、様々な価値が循環する仕組みができます。会社時代に得た能力や経験を互いに認識し、共有できる場として、アルムナイは重要な役割を果たすでしょう。今後は企業側も積極的に関わり、新たな組織の財産として育てていく必要があります。